速度を合わせるために使う【メトロノーム】
ようこそ!ブーです。
今日は、メトロノームを紹介します。
メトロノーム
メトロノームは、音楽を演奏するときのテンポ(速さ)を一定に合わせるために使う音楽用具(拍子計測器)です。
ドイツ語でMetronom、英語ではMetronomeと書きます。
一般的な楽譜に書かれてある速度指示に対応できるように細かく調節ができるようになっていて、私達はその速度を一定に鳴る音によって知ることができます。
昔は上のイラストのような機械式のものが主流でしたが、機械であるが故に刻んでいる拍にズレが生じる事があるため、現在では機械式のような欠点がない電子式メトロノームを使う人が多くなってきています。
機械式の欠点
- 使う場所が水平で無かったら速度が一定にならないので、置き場所を考えなくてはいけない。
- 引力の力が影響するので、本当に一定か判らない。
- 長年使っていると機構の劣化が進んで拍がズレる。
- 少しのズレだったら気が付きにくい。
- テンポを一定に合わせることしか機能がない。
- 毎回、しかも何度もネジを巻かないと動かない。
このように欠点があるのは、機械式のメトロノームが重力の作用によって動く振り子の原理を利用した音楽用具だからです。
一般的な「下に重りがついている振り子」ではなくて「上に重りがついている振り子」の作りになっていて、上向きについている重りは上下に動かして周期(速さ)を調節することができます。
機械式のメトロノームの場合は、重りが上にあるときにはテンポが遅くなり、重りが下にあるときにはテンポが速くなりますが、振り子の長さには限りがあるので、テンポの調節は「およそ40~208まで」と制約されてしまいます。
振り子の原理では「重力や引力」が関係してくるので、重りの動きを一定にするためには水平な場所に置かなければいけません。
そして動かし続ける(衰退しないようにする)ための動力はゼンマイばねを使っているので、どうしても手でネジを巻く作業がつきまといます。
一方、電子式は水平でなくとも使えますし、拍がズレるくらいの劣化が起こっていたら電源がつかなくなるので買い替え時もわかりやすいです。
電子式なので動力である電池が入っていれば何時間練習しても止まることはありませんし、テンポも40~208という制約はなく様々なリズムパターンを刻むことができたり、音の高さを合わせる電子チューナーに内蔵されたりと、拍を刻むことしかできない機械式のメトロノームとは違って、たった1台で多種多様な機能をもつことができます。
確かに電子式メトロノームはいろいろな種類や機能があってとても便利ですが、私は機械式の方が趣があって好きだなぁ…。
あの振り子時計のような『カチッ、カチッ、カチッ…』という音がないと寂しいです。
電子式メトロノームでも機械式のアナログな音を使っているものがありますが、やっぱりリアルな音ではないので、情緒が感じられないんですよね。
メトロノームに関係の深い人
メトロノームを作ったのは、Johann Nepomuk Mälzel(ヨハン・ネポムク・メルツェル、1772年8月15日-1838年7月21日没)というドイツ出身の発明家で、1816年に特許を取得しました。
音楽家で初めて楽曲に取り入れた人物は、メルツェルと同じドイツ出身のルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンです。
古典音楽の良さを残しつつ新しい手法・技法を取り入れていた、斬新で新しいものが大好きなベートーヴェンらしいなぁ…、と思いました。
なぜメトロノームをベートーヴェンが使うことになったかというと、メルツェルが作った「パンハルモニコン」というパイプオルガンのような形をした、オーケストラの楽器を内蔵している機械仕掛けの楽器のために曲を依頼されたことで親交を深め、その流れでメトロノームの存在を知ったからです。
当時のベートーヴェンは難聴によって音が聞き取り辛く、自分の作った曲を指揮したくても、音を聴いてリズムを取ることが上手くできないので苦しんでいました。
ですがメルツェルの作ったメトロノームに出会い、曲のテンポが視覚的に把握できるようになったので、喜んで使うようになったのでした。
商売上手なメルツェルは、ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社(日本ではブライトコプフと呼ばれる。ドイツ発祥の1番歴史が長い楽譜出版社)にあてて手紙を書いています。
「ベートーヴェンは以前と新しい作品のすべてにメトロノームを表記いたしました。手元にカタログができておりますので、ご要望とあればお送りできます。」
実は、メルツェルがメトロノームを作る前に「クロノメーター」と呼ばれた拍子計測器がありましたが、質の悪さから評論家からは酷評されていました。
その拍子計測器の最悪な印象を払拭し、自分が作った商品を大々的に売り出すためには、著名なベートーヴェンの名前を語れることが大いに役立ったといえます。
メトロノームの使い方
メトロノームを使っての速さが指示されるときには、楽譜に「M.M=100」や「♪=100」という風に書かれます。
M.Mはメルツェルズ.メトロノーム(Mälzel's Metronome)と読み『メルツェルが作ったメトロノーム』という意味があります。
昔はこの表記がないと、正確なテンポを刻めない拍子計測器が使われるおそれがあったためです。
♪ の部分は楽譜に指定してある基準の音符と同じになっていなければいけません。
「M.M」と「♪」のどちらも基準の音符の速さを示す記号で、1分間にメトロノームが何回拍を刻むことができるかで速さが決まります。
「M.M=100」や「♪=100」の表記がある場合は、メトロノームの目盛りを100に合わせ揺らします。
電子式は液晶画面の数字を、上下についたボタンを操作して100に合わせましょう。
このときメトロノームが打つ拍の回数は、1分間におよそ100回になります。
拍子と演奏の速さを合わせるために、機械式ではツマミで指定・電子式ではボタンで操作した「2、3、4、6間隔」の拍でベル(鐘)などの音が鳴る機能があります。
この機能がついている理由は、小節の始めが判るようにするための配慮と、間違えたときにベルがなる場所がズレるので、適当に拍を誤魔化すこと(ズル)ができないようにするためです。
個人的に、お経の読経のときに使う「木魚とリン」に似ていると思います。
『ポクッ、ポクッ、ポクッ、チーン』って感じがしませんか?(笑)
メトロノームのおもしろい実験
この動画は「同期現象」を再現した物理の実験です。↓
この実験は、東京理科大学工学部経営工学科の教授である池口徹さん率いる「池口研究室」のメンバーが行ないました。
台の上にズラリと並べられているのは、なんと100個のメトロノーム!
(研究室では他にも2・3・7・10・24・32・54・64・72個のメトロノームを使った実験も行なっています。)
構造上、同じペースを維持して動き続ける装置のハズなのに、始めはバラバラだったメトロノームがだんだん揃ってきてしまうなんて、本当に不思議だなぁ…。
同期現象は、メトロノームが左右に振れる事によって起きる「運動エネルギー」が、乗っている大きな台ごと全体を揺さぶり、乗っているメトロノームすべての振幅を強制的に調節してしまうことによるズレ、が原因で起こります。
水平でないとズレが生じるという、機械式メトロノームの欠点を利用した良い実験です。
位置エネルギーや運動エネルギーを使った「運動方程式」という数学的な説明もありますが、難しいので今回は割愛させて下さい。
とても興味深く面白い実験ですが、家でやろうと思ったら処理しきれない量のメトロノームが必要になりますし、普通に騒音でご近所から苦情がきてしまいそうなので止めておきましょう。(笑)
メトロノームのための曲
メトロノームは本来、速度を知るための音楽用具ですが、その音の刻みを利用して曲も作られました。
知られているものでは、ハンガリー出身の現代音楽の作曲家のLigeti György Sándor(リゲティ・ジェルジュ・シャーンドル、1923年5月28日-2006年6月12日)が作曲した「100台のメトロノームのための-ポエム・サンフォニック」と、日本の作曲家でピアニストの一柳慧(1933年2月4日~、オノ・ヨーコの元夫)が作曲した「電気メトロノームのための音楽」という曲があります。
機械式のメトロノームを使った「100台のメトロノームのための-ポエム・サンフォニック」では、他の楽器は使われずメトロノームのみの演奏です。
演奏は1分34秒あたりから↓
動画では電気制御で演奏が開始しますが、本来は演奏者2人がメトロノームを動かす準備をします。
演奏者はメトロノームがすべて動き始めたらその場からいなくなり、逆に聴衆は演奏者が去ってから入場が認められます。
バラバラに鳴らされたメトロノームが徐々に止まっていって、最後の1つが止まると演奏の終わりを意味するので、そのときの始まりやメトロノームの具合で演奏時間は異なり「最短で5分、最長で20分」とかなりの差がでます。
電子式のメトロノームを使った「電気メトロノームのための音楽」では、色々な音や声が使われており、音楽の異端児であるジョン・ケージに大きく影響を受けた作風になっています。
音量注意!途中で変な音や声が入っているので驚かないように気をつけてね。
3~8人で演奏され、演奏時間は8~15分ほどかかります。
メトロノームを楽器として考えた発想力もスゴイですが、正確に拍を刻む道具を使って無秩序に聴こえるように作曲してしまう芸術性に圧倒されてしまいました。