近代音楽の真骨頂「スリップ・ストリーム」
ようこそ!ブーです。
今日は近未来を感じることができる、F.M.マイヤー作曲トロンボーン・ソロ演奏の「スリップ・ストリーム」を紹介します。
作曲家
作曲家は、Florian Magnus Maier(フローリアン・マグナス・マイヤー、1973年-ドイツ)です。
マグヌス・マイアと表記されたり、メタル業界ではMoreanモリアンというアーティスト名で呼ばれています。(メイクのせいで怖いけど、本当はイケメン)
フラメンコとギターの勉強のために1994年オランダへ移住しましたが、関節過活動症候群と診断されたために、演奏に激しさを必要とするフラメンコギターのプロにはなりませんでした。
音楽経験と技術はあるので、メタルバンド「ダーク・フォレスト」や「アルカロイド」のヴォーカリストやギタリストとしても活動しています。(関節過活動症候群だからといって、こっちの手を抜いているわけではありません)
ロックやメタル、フラメンコ、クラシック(特に近代・現代作曲家の作品)を好んでいるので、「スリップ・ストリーム」のリズム感や音楽性にもその影響が色濃く出ています。
「スリップストリーム」
この曲は、作曲者のマイヤーと同じくドイツ出身のトロンボーン奏者のJörgen van Rijen(ヨルゲン・ファン・ライエンまたはリジェン、1975年2月20日)のために作曲されました。
「ライエンさん以外に演奏が可能なのか?」と考えるほど、高度な演奏技術が必要な難曲です。
正式名称は「Slipstream for trombone soro & loop stationトロンボーン・ソロとループステーションのためのスリップストリーム」で、
ライエンさんのために書かれた曲なので、彼が演奏するときは「Slipstream(Tb:J.v.Rijen&Sound system)スリップストリーム(トロンボーン奏者J.V.ライエンとサウンド・システム)」という風に表記されることもあります。
演奏時間は12分ほどで、トロンボーン奏者が1人で演奏します。
演奏した音を「ループ・ステーション」という機械を使って次々に録音(多重録音)していき、それをペダルを踏む事で順番に再生して曲の伴奏に使いながら演奏する曲です。
演奏者がたった1人でリアルタイムに、レコーディング(録音・記録)とミキシング(組み合わせ)をしていると考えれば、いかに超人的な事をしているかわかると思います。
この曲のスゴイところは機械を使うことだけではありませんよ!
普通では思いつかないような「マウスピースを逆にして吹いたり、手でマウスピースを叩いて音を出す」などの演奏技術を使うので、そこでも驚かせてくれます。
録音したベースやリズム部分はゆっくりなのに、録音していない音は速く細かいので、ミキシング効果と相まってさらに怪しい雰囲気です。
ミュート(弱音器、管楽器に使われる音を小さくする装置)とクリアな音に分けて、それを効果的に使っているので「本当に1人で演奏しているんだろうか?」と錯覚を起こしそうになります。
素晴らしい作品ですが「自分が演奏者だったら…」と考えると震えがくる位のスリリングさを持った曲です。
イヤホンも着けて「自分の世界」に入ってる風に見えるけど、人前で観られながら演奏する緊張感と、やっぱりループ・ステーションを扱うのにも神経を集中しなきゃいけなかったり、
録音によって曲が成り立つ仕組みのために、ちょっとでも音がズレると曲が崩壊してしまう恐怖を感じてしまって、頭がどうにかなってしまいそうだと思いました。
クリップ式のマイクは邪魔じゃないんだろうか?(笑)
Loop Stationループ・ステーション(soundo systemサウンド・システム)
ループ・ステーションは音源を短い時間録音し、その録音した音を輪っかのように繋げて音楽としての流れを作る機械です。
「ループ=輪・環」で、「ステーション=停留所・放送局・場所」という意味があります。
サウンド・システムは、可動式の音響施設や、録音した音をスピーカーなど使って提供する機械のことです。
「スリップ・ストリーム」は、『Boss RC-300ループステーション』を念頭に置いて書かれたものです。
ですが、「1オクターブ(=1200セント)または2オクターブ下の音を重ねて出せる機能。少なくとも16秒のループ持続時間が必要。パンニング(音量を整える機能)がついているもの。機械全体での響きで補えるから、リバーブ(残響)機能はキツくないものが良い。」などの細かい指定があるので、これを備えているものならどの機材を使ってもいいようです。
「スリップストリーム」という言葉の意味
物理学の「スリップストリーム」
速く進んでいる物体の後ろに出来る渦のような「らせん状の空気の流れ」のことと、
スポーツ(トラック)競技などのときに、人の後ろにまわって自分の風の抵抗・空気抵抗を抑えて力を温存して頃合を見極めて「スッ」と抜き去る技術のことです。
文学の「スリップストリーム」
「純文学=メインストリーム」に対して、リアリティのない「不思議な小説」SFやファンタジーなどのことを「スリップストリーム」と言います。
要は、タモリさんの『世にも奇妙な物語』みたいな作品のことです。
時代は進んでるんだなぁ
電子音楽は1900年には既に有り、1980年代にはコンピューター音楽が主流になったので、今では当たり前にある音楽の1種です。
でも、この曲を聴くと「とうとう機械を使う時代がやってきたかぁ~!」と思ってしまいます(笑)。
それは、録音という消費者が普段は目にしない「リアルタイムではない」ものを、その場で生演奏と合わせて「リアルタイムに行なっている」という矛盾を感じるからです。
演奏者がコンサートの舞台上やその他の演奏の場で「イヤホン」を付けているのも視覚的にとても斬新ですよね。
演奏しているのはたった1人だけど、「スリップストリーム」は音楽に無限の可能性を感じさせてくれる未来の音楽って感じでスゴイなぁと思いました。