3月11日と坂本龍一の「津波ピアノ」
ようこそ!ブーです。
今日は、坂本龍一さんの作品「津波ピアノ」について紹介します。
3月11日
と言えば、細かい説明は要らないですよね。
「津波ピアノ」は、辛く耐え難い日々を忘れないための芸術作品として生み出されました。
坂本龍一
坂本龍一(Sakamoto ryūichi1952年1月17日~、東京都出身)は日本を代表する音楽家で、今は拠点をニューヨークに移して活動しています。
「教授」という愛称で親しまれている彼は、常に日本に最先端の音楽をもたらしてくれる人物です。
音楽性はクラシック音楽が根幹にありますが民族音楽や現代音楽にも造詣が深く、現在では『持続する音・消えない音・減衰しない音に憧れを持って、恥ずかしくないものを残したい』と考えています。
音楽活動のほかには、社会活動にも積極的です。
復興支援プロジェクトを自ら考えて震災にあった方々を応援し、震災のために壊れてしまった楽器を修復するための募金「こどもの音楽再生基金」の発起人や、被災地の小学生から大学生で編成しているオーケストラにも代表・監督として参加し、人々を勇気づけてくれます。
坂本さん自身も、ガンという大病を患っている中での活動ですから、どれだけ大変だったことでしょう。
「津波ピアノ」は坂本さんの2017年に発表されたアルバム“async”の「ZURE」で使用されています。
実際に「津波ピアノ」が組み込まれた曲を聴いたピアノの関係者の人は『まさか曲に使われるとは思わなかった。曲が持つ強烈な違和感に、日常が分断された震災の光景を思い出した』と語っています。
“asyncアシンク”とはasynchronizationの略で「同期しない」という意味です。
雨や風、街のざわめきなどの身近にある音を取り入れた作品となっています。
怖い感じがすると思うので聴くときは心して再生してください。↓
津波ピアノ
坂本龍一さんは、震災から10ヵ月後の平成24年の1月に宮城県を訪れました。
後に『津波をかぶったピアノという話が出てきたんですよね。見て見ぬふりをするっていうのはとても…僕には出来ないことですから』と語っています。
そのとき出逢ったのが、海に近かったため津波に遭遇した高校の体育館に置いてあった、壊れた1台のピアノです。
そのピアノは、昭和41年の卒業生から記念品として贈られ、震災の10日ほど前の卒業式でも演奏されていました。
平成23年3月11日、校舎の2階まで到達するほどの水が押し寄せた中で、どうやらピアノは片付けられていた倉庫の中に入り込んだ水の上を漂っていたようです。(浮力が働いたのでしょう)
何とか原形はとどめていたものの、鍵盤はところどころが沈んだままになっていたり、弦も浸水によって錆びたり切れたりしています。
そして外側にクッキリと残っている傷や泥水の跡…。
坂本さんはこのピアノを初めてみたとき、思わずこう言いました。
「ピアノの屍骸」
かなりショッキングな言葉ですが、確かに水没して壊れてしまったピアノは死んでいるように見えます。
壊れている楽器を見て心が痛むのは、その楽器が色んな人の思いや、思い出を含んでいるからでしょう。
坂本さんも同じ気持ちを感じ、この無残な姿のピアノを「自然の調律によって作られた・自然の力で調律から解き放たれたピアノ」として作品にすることにし、引き取りました。
ピアノという楽器は人の手によって、切り取られた木を機械の力で曲げてボディ部分を、溶かした金属で骨組みが作られます。
弦の張り具合や楽器自体の重さで何トンもの力が加えられているのです。
これでは決して自然の音と言えません。
ですが、津波ピアノの自然の力で作られた歪んだ音の響きを聴いて、人の手によって作られたピアノの音が「自然の響きに近づいた」という風に感じ、魅力を見出したわけです。
このピアノを芸術作品として扱うためには、鍵盤が沈んだままだと演奏がしづらいので、修理することにしました。
でも「音はそのままで鍵盤を演奏できるように直して欲しい」と、なんとも職人泣かせな要望を出します。
逆に全て新品に換えてしまうことの方が簡単ですが、坂本さんは雑誌の記事で「津波ピアノ」の経緯をこう説明しています。
「ピアノではあるんですけど、津波によって物に返されてしまった…自然が物に返したものなんです。
近代的な思想の産物、最も完成された産物であるピアノは、本来は木だったり鉄だったり象の牙だったと。
いわば自然が調律したことで、とても象徴的でしたのでこの音は使いたかったんです」
ということで演奏ができるようになりましたが、災害に遭ったそのままの歪んだ音で生まれ変わることになりました。
芸術作品として甦った「津波ピアノ」は、ピアノの鍵盤に自動演奏機を取り付けてコンピューターに接続してあります。
世界中の地震のデータに基づいて、その周波を音に変換する装置(作品)として、曲に使われているのとは別の芸術作品となったのです。
不規則な音を奏でるその作品は、正直に言うと震災のことを思い起こさせ恐ろしくて震えました。
展示スペースにはピアノだけが置いてあり、本来は説明などありません。
暗闇の中でモニターの光とピアノの音が同調し1つの芸術として存在しています。
ピアノ自体も機能するようになって展示をされていますが、津波をかぶった当時のままの姿をとどめています。
ホコリや砂がこびりついているその様子は、あの日すべてを奪った海の底にいるような気分になるでしょう。
時の流れが人々から「震災の記憶」を遠のかせ、風化させてしてしまうことを危惧した坂本さんからのメッセージなのだと良くわかる芸術作品です。
音楽はやはり説明が無くても『人の感情を揺さぶる何か』があるんだなぁと思いました。
それでは、今日はここまでにしておきます。
震災に遭われた方々に、心から哀悼の意を表して…。