嫌がらせが好きなの?エリック・サティと「ヴェクサシオン」
ようこそ!ブーです。
今日は、作曲家エリック・サティの嫌がらせの集大成とも言える「ヴェクサシオン」という曲を紹介します。
以前もサティの曲を紹介しました。↓
エリック・サティ
Erik Alfred Leslie Satie(エリック・アルフレッド・レスリ・サティ1866年5月17日-1925年7月1日没)はフランス出身の作曲家です。
カトリックの洗礼を受けていたサティは幼い頃から音楽に興味がありました。
6歳で教会に置いてあるパイプオルガンに魅せられ入り浸るようになり、13歳の頃には1795年を起源にするパリ音楽院(現在のパリ国立高等音楽・舞踊学校)という由緒正しき音楽学校に入学しました。
ですが、当時の音楽院はオペラ関係者のための養成機関と化していて、『声楽家といえばオペラ歌手・作曲家といえばオペラ作曲家』という風にしかイメージできないような学習内容と、教えてくれる声楽教師の質の低さや知識の不足、また古くからの癒着のため教師の高齢化が目立つ最悪の状況になっていたので、サティが求めていた音楽性には合いません。
7年たったある日とうとう『退屈すぎる』という理由からパリ音楽院を退学します。
のちに入学したスコラ・カントルムという音楽学校は、音楽の伝統が深い諸国の歴史や、その作品を熟知できるマジメな学習内容だったので卒業することができました。
音楽家としては1887年からシャンソン・バー(シャンソンが聴ける酒場)でピアノ弾きとして活動を始めます。
そのかたわら、フランスで活躍していた芸術家にインスピレーションを与えていた「カフェ・コンセール」というカフェで行なわれる音楽ショーを、画家のパブロ・ピカソや詩人のジャン・コクトーと共に楽しみ、その他にもカフェに集う多くの芸術家と親交を深めていくのでした。
学校で習った音楽の勉強も作曲の役には立っていましたが、こういった経験や芸術家との出会いから得たインスピレーションの方が、サティの音楽に大きな影響を与えています。
嫌がらせの集大成「ヴェクサシオン」
サティは、自分が作曲した作品に奇妙でありえないようなタイトルをつけたり、曲自体も演奏者を困惑させるような作りになっていたりするので「音楽の異端児」や「音楽の変わり者」と呼ばれるほどの人物でした。
その中でも1番ヤバイのが「Vexationsヴェクサシオン」というピアノ曲で、全てを演奏し終えるのにかかる時間は、なんと15時間以上!
時間を聞いただけで演奏したり聴いたりする気力がなくなりそう…。
それもそのはず、タイトルの「ヴェクサシオン」はフランス語で『嫌がらせ』という意味があります。
この作品はサティの遺作で、弟子のロベール・キャビーがフランス国立中央文書館から見つけ出した遺作で1893~1895年に作曲されたものです。
楽譜はいたってシンプルで行数はたった3行しかありませんが、この3行を1回と考え、それを840回くり返して演奏をしなければいけません。
1回は1~1分半ほどと短い曲ですが、それを840回もくり返すのは骨の折れる作業です。
そのため楽譜には、
『このモチーフを連続して840回繰り返し演奏するためには、大いなる静寂の中で、真剣に身動きしないことを、あらかじめ心構えしておくべきであろう』
と書かれてあります。
ですが、このような言葉の説明はあるのに、リズムに関係する拍子記号や細かく分けるための小節線、そしてメトロノームでの速度指示が書かれていません。
なので演奏者それぞれの演奏速度によって、全てを演奏し終える時間が15時間~25時間と幅があります。
この動画は1回分の演奏です。安心して最後まで聞いてください。↓
これが延々15時間以上も演奏されると考えたら、ピアニストも観客も耐えることが出来ないと思います。(840回も同じメロディを聴いたらイヤでも覚えてしまいそうです…。)
実際に1人で弾こうとしたピーター・エバンスは595回・およそ15時間で断念しました。
理由は『幻覚をおこしたため』です。
きっと座ったままで居なければいけないストレスと、15時間も演奏していた過労のせいでしょうね。(笑)
通常のリサイタル(1人で行なうコンサート)の時間を考えて1人3時間の持ち時間とすると、5人以下の人数でこの曲を演奏するのは集中力・体力・精神力が損なわれるのでやめたほうが良いと思います。
初めての演奏
この曲が世界で始めて演奏されたのは、1963年12月31日~1964年1月1日のニューイヤーコンサートです。
「4'22"」という曲でお馴染みの作曲家ジョン・ケージを筆頭に、ピアニスト10人と助っ人2人で行なわれました。
夕方の6時40分から演奏を始めて翌日の午後0時40分まで弾き続け、約18時間40分かかったと記録されています。
日本で始めて演奏されたのはそれから3年後の1967年(昭和42年)、こちらも年越しのコンサートにて演奏されました。
テレビ番組『題名のない音楽会』の初代司会者として有名な黛敏郎さんを筆頭とした作曲家16人によって、12月31日午前11時15分から1月1日の午前2時28分までの15時間23分行なわれたと記録されています。
意外と気軽に聴ける!
他の作曲家の作品では、終わりがなく永遠にくり返される曲や、演奏に639年かかる建造物のサグラダファミリアのような壮大な曲もありますが、キチンと楽譜にされていて演奏が可能なものとしてはこの「ヴェクサシオン」が1番長いんです。
ギネスブックに載るくらい長い演奏時間のため、普通であれば販売されているCDに入りきれません。
ですが、同じフレーズを何度も弾くので18時間全部でなくても良いという考えもあり、数回弾いたヴァージョンがCDとして存在しているので、意外と気軽に聴くことができるんです。
これをエンドレスでかければ、即席でフルヴァージョンにすることが出来るので、いつか試してみようと思います。(笑)