ブー先生の音楽教室

学校では教えてくれない、音楽のことを書いています。

ティンパニを破壊し指揮者を倒す、作曲家カーゲル。

ようこそ!ブーです。

 

今日は、マウリシオ・カーゲルが作曲した打楽器のティンパニを破壊する曲と、指揮者が急に倒れる曲を紹介します。

 

 

作曲家マウリシオ・カーゲル

Mauricio Raúl Kagel(マウリシオ・ラウル・カーゲル1931年12月24日-2008年9月18日没)はユダヤ系のアルゼンチン人で、

20代でドイツ・ケルンへ移住し、作曲活動や大学で教鞭を取ったり、自由に音楽活動をしながら生涯を過ごしました。 

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カーゲルの作風は、過去に無いようなパフォーマンス性ハプニング性を備えているため、独創的で度肝を抜かれる前衛音楽でした。

 

今聴いても斬新過ぎるし、曲自体も宗教的要素を含んでいたりするので、社会や音楽自体を批判し皮肉っているように感じると思いますが、 

彼が音楽の型にはまらずに独学で作曲を身につけて、音楽を自由に表現することをためらわなかったから実現できた音楽の1つの形なんです。

 

楽譜上では自由に表現できても、いざ聴いてみると理解してもらえない事が多いため、観るだけでわかるように劇や映画などの視覚的芸術と音楽を融合させた「総合芸術」を企画し、自分でした方が思っている通りに再現できるので自ら出演もしました。

 

 

指揮者が急に倒れます。「フィナーレ」

「Finaleフィナーレ」は1981年に作曲された、小規模なアンサンブル(管弦楽団)で演奏される曲で、楽譜には指示としてたくさんの文字が書かれます。

 

楽譜に文章が書かれることは少ないので、開いて見たときに普通と違っていて何とも不思議な感じなんですよ~。

 

楽譜に書かれている文章↓

指揮者:突然の痙攣に見舞われたかのように硬直。右の腕は上げられ、肩は盛り上がる。

左手はネクタイを緩め、自分の胸の辺りを軽くさする。

譜面台を掴み…後ろの床に(聴衆側に)頭を向けて倒れ、そのため譜面台は彼の上に引き倒される。

コンサートマスター(一般には第1ヴァイオリンの首席奏者)が代わりに指揮をとる。

 

スゴく具体的ですよね。

曲というよりもお芝居や大掛かりなドッキリに近く、演奏者全員の演技力が必要になると思います。

 

曲の演奏時間は25分程度で、指揮者が倒れるのはラストの5分前位です。

残念ながら、映像はこれ↓しかありませんが…

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海外の映像ですら出てこないということは、こんなことも挑戦しちゃう日本ってスゴイ国だということですね。

 

 

主役のティンパニを1個破壊します。「ティンパニとオーケストラのための協奏曲」

1985年に作曲された「Concert(piece)for Timpani and Orchestraティンパニとオーケストラのための協奏曲」は演奏時間、18分程度の曲です。

 

主役(ソロ楽器)で題名にもなっているティンパニを6個も使っています。

 

ティンパニを破壊するからくりは、6個あるうちの1個の鼓面(ヘッド)部分を外して替わりにあまり厚くない紙を張るんです。

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残りの5個は通常通り演奏しますが、紙に張り替えたティンパニは置いてあるだけで最後まで触れません。

 

ティンパニが6個も有るうえに「どのティンパニを弾いているか」なんてことはいちいち確認しないし、ティンパニ奏者は曲の間中、楽器をマラカスや手で叩いたり・メガホンで声を共鳴させる不思議な演奏をするので気が散って、最後まで気が付かないんです。

 

そして、やっと曲の最後に「打面替わりに張った紙を破ってケトルに飛び込む」の指示通り、打楽器奏者の人がマレット(ばち)で叩き割って頭・肩・腕・上胸部(上半身)を突っ込みます。

 

本物と同じ指示の図↓

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楽譜には「fffff」と書かれているので、本来ならばちを叩きつけて大きな音で演奏しなければいけません。

楽器を破れやすくしているので強く叩く動作をすると、結果的にそのままの勢いでティンパニに突っ込んでいって上半身が入り込んでしまうという演出です。

 

ティンパニの奏法で紹介されるくらい有名ですが、この曲以外には使うことが無いのでご安心を。(笑)

 

 

youtu.be

 

曲を聴いていて「クライマックスっぽいし、そろそろ終るのかな~」と思っているところで急にティンパニの破壊が来るから、観客を「何が起こったんだ!?」と驚かせる見事な演出だと思います。

 

 

音楽の表現や価値観は本当に自由なんだな…

今回カーゲルの作品を調べて思ったことは、「音を聴くだけじゃなくて、演奏を観ることで音楽の表現ができるんだなぁ…」ということです。

 

普通のクラシック作品は演奏を聴くだけで満足できるけど、カーゲルの作品は人が観てこそ価値が出てきます。

 

とにかく音源や映像が少ないので、もっとコンサートとかで演奏してもらいたいです!

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